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『夜想曲集~音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』

★★★
カズオ・イシグロ 土屋政雄訳
<09/08/12> カズオ・イシグロの衝撃はやはり『充たされざる者』にあった。前作『日の名残り』も気持ちよく読めた作品だが、別人が書いたかとまがうほど『充たされえざる者』はまったく異なる方法で書かれていて、それはシュールリアリスティックの域に達していた。で、いながらための実験ではなく存分に面白い。エンターテインメントでもあるのだ。以後この『充たされざる者』の影を追ってイシグロ作品を読み継いできた。『わたしを離さないで』のSF味に快感を呼び覚まれつつ、どこか『充たされざる者』に及ばない、欠落感を抱かざるを得なかった。さて本作はというと、これにはイシグロの再びの転換期を迎える序章のような印象を得た。『充たされざる者』ほどの実験はないがどこかギクシャクとした流れ、ぶった切られるラスト。次の長編で新たな方法の結実を見ることができるだろう。

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