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『BAND LIFE バンドライフ』 吉田豪

「ダハハハハ!」と笑いながらインタビューできる理由 [2008/06/30]

 吉田豪が特定の分野においてぼう大な知識を有し、また、インタビュー等にあたっては対象に関する事前の取材を極力行って臨む、ということは知っていたし、実際本書においてもミュージシャンたちが「よく知ってるねえ!」という驚嘆の声を歳々あげている。けれどこれはかならずしも賞賛の意味ばかりとはいえない、と読んでいて感じた。インタビューイにしてみれば、(なんでそんなことまで知ってるんだろう、気味が悪い)(それはこっちから言おうと思ってたネタなのに)といった思いを抱くこともあったろう。掲載されている対談時の写真を見ると、吉田がなにやらパソコンで打ってきたようなテキストがみっちりつめこまれた紙を手にしているのが判る。「徹底した下調べ」の成果なのだろうが、彼はそれを相手に見えないよう縦にして持っているのだ。テーブルに置かれていることはまずない。これも、バンドマンたちにとってはかなり気分のよろしくない行為ではなかろうか。
 しかし吉田豪の仕事はアーティストのためのものではない。アーティストの方をさしていないそのベクトルは読む者にむかっている。読者が面白がることを一意に、彼がベストと選択した方法がこれなのだろう。そのためにインタビュー相手に疎まれようが、やるのみということか。そしてそれは成功している。そのことを象徴するひとつをとりあげれば、「お金」の話だ。吉田豪はバンドマンたちに当時のギャラのことを遠慮なく聴いている。あきれるほどどのバンドもどのバンドも低額のそれしかもらっていない。「印税」という仕組を知らないかのようだ(実際知らなかったバンドもあった)。あまりの低さと、すべてといっていいほどのミュージシャンがそんな状況にあったことで、これはもう笑い出さざるを得ない。そしてこの事実を、吉田豪は事前に知っていて相手の口からひきずり出しているのだ。
 それにしても見事に同世代がそろった。ほとんどが1962年~1966年生まれ。これも吉田豪のねらいで、つまりイカ天が表層するような「バンドブーム」黎明期にあって、地方から出てきて血気盛んなだけの世間知らずの若者たちが、一時の隆盛に舞いあがり、女やドラッグを手に入れ、けれど不器用さゆえにお金に関してだけは大人たちに騙される。その後のブーム低迷から彼らはすさみはじめ、大半は解散してゆくが、自分たちが大人になると「昔の夢」とばかり再結成したりする。そういった一連のドタバタした感じがぜったいに面白いとにらんで吉田豪はこの世代に的を絞ったわけだ。この時期以降に輩出したバンドたちは小利口になり、大人たちとも対等に渡りあったのだろう。
 面白かった。面白かったけれどもだから、ほとんどのインタビューイが似たような話をする。それこそ最後の大槻ケンヂの「総括」を読んでおけばだいたいOKという感じだ。けれどひとつ気づいたのは、対談を読んでおおむねそのアーティストに好感を抱いたことだ。これかな、と思った。気持が悪いほど自分の事を調べつくし、なにやら謎の資料を見ながらタブー無視で深い部分を聴き込んでくる吉田豪に、実はそれゆえに読者には共感をよぶインタビューとなることをバンドマンたちは知っているからこそ己をまかせ、大笑いさせながら機嫌よくあらゆることを喋ることになるのか。きっとそうだ。

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