« 『田中小実昌エッセイ・コレクション2 旅』 | Main | 『カンバセイション・ピース』 保坂和志 »

『風紋』 乃南アサ

母の手紙が三度リフレインされる [2004/03/31]

 とても女性的な文章だなあと感じた。たとえばそれは読点(、)の使い方にあらわれている。こんなトコに要らないだろうという文節に打ってあって、でもそれを意識しながら、特に会話体なんかを読むと、細やかな、優しい気持になってくる。
 あとキャラクター造形。印象に残ったのは「きつね顔の葬儀屋」。ほとんどゲイかと見まごうばかりの言葉遣いだけれど、嫌味じゃない。いっそ清々しい。こんな人物を描けるのは、女の筆ゆえという気がする。オカマと仲のいいノンケの女性の視点。
 こういった女性性に満ちていて、それでいて、化粧臭くない気分の良さがある、それが乃南アサの文章の特徴かととらえた。高村薫の対極にいる作家だ。
 ところで高浜則子が次女に残した置手紙が三度出てくる。これが怪しい。2回目以降は「その手紙を読んだ」とでも記述すればすむわけで、同じ文章を丸々繰り返す意味はなんなのか? ミステリーとしての、謎解きの鍵がここにあるのではないか。たとえば、三つの文章が実は微妙に違っていて、すれちがえられた可能性があるとか。そう思
ってくらべてみたが、まったく同一であった。出題者の指定により、上巻だけで中断し、続きを読むのをガマンしているので、この推測が当たっているかは判らない。ただ、かなりいいセンを突いているのではないか。
 そのことはよいとしても。作中に、娘が置手紙を喜ぶといったことが書いてあるが、たしかに置手紙というのは良いもので、好きな人が多いのではないかと思う。ある母親が、最後に遺した置手紙を、我々は三度読むことになるわけだ。こんなところでも、乃南アサの、女性的な優しさと切なさが、胸に迫る。

|

« 『田中小実昌エッセイ・コレクション2 旅』 | Main | 『カンバセイション・ピース』 保坂和志 »