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『田中小実昌エッセイ・コレクション2 旅』

飄々となるにも努力が要るのである。 [2004/05/15]

 ヘンなおっさんだなあ。この本におさめられてるどの話をとってもだいたい同じ。どっかに旅行にいって、あてどなくバスに乗って、夜は呑む。だいたいハシゴしてる。で、女の人が脇にいることが多い。こういうおんなじことを何度も書けるというのはただごとではない。とぼけてるというか、飄々としている。「飄々」では色川武大氏を思い出させる。
 たまに哲学的な考察などが入るとオヤと思う。たとえば302頁では「構成する」ことの嘘に言及している。なるほど、そんなうそくささがイヤで、頭にうかんだことをずるずるとそのまんま写すような文章を書き続けているのか。
 でも待てよ。箱根に行く章で、ちょっと引っかかったのだった。ここは呑み屋で出会った女の人と旅館に泊まり最後までいっしょにいるという面白い話なんだけど、冒頭小田原に着いたあとちょっとした回想に入る。で、その回想から現在に帰ったとはっきり示されないまま、その女の人と出会うエピソードが描かれる。読む側はその出会いも過去の出来事かとしばらく錯覚する。でも現在の話なので軽い驚きがある。これは、時制の操作と錯覚の誘導を意識して書
いてるとしか思えない。おっさん、「構成」してるやんか!
 油断がならない。こんな、おんなじよ~な話をわりとさらさらと読めてしまったのには、実は田中小実昌の血のにじむような努力があるからではないか。彼は文章的なあらゆるテクニックを繰り出し、発明し、それこそ呻吟しながらこれら文章を書いたのだ。それでいてわれわれはおっさんがただぼけーッと書いたとしか受け取らない、いや、そうとしか受け取らないように書いている。
 飄々となるにも努力が要るのである。

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