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『三億円事件』 一橋文哉

トンデモドキュメント [2004/12/31]


 読むのを躊躇わせるものがあった。
 読書に臨む際にはその本に応じた「覚悟」が必要で、SFならSFの、その「モード」に頭を切りかえていく。これが上手くいかないと、書物内の世界になじめずいつまでも違和感を抱きながら読みつづけるハメになる。この『三億円事件』は、どんなモードを適用すればよいのか迷わせる。
 それは端的に「ドキュメント」として読むのか、「トンデモ本」なのか、ということだ。
 同じ著者の『闇に消えた怪人』を読んでいることが、この判断留保に大きく影響している。あれはたいそう評判になった本だった。あたかも、この書物のなかにグリコ・森永事件の真犯人が描かれているかのような惹句に、期待をもって読みすすめた。が(ずっと以前のことで記憶のハッキリしないところもあるが)、なにやらウラ世界の国際的な組織の陰謀や、貴重な情報を握る個人との接触などをにおわせながら、結末は曖昧なものだった。これは、「ロスチャイルド財団」とか「フリーメーソン」とか「キリストの聖体伝説」とかのノリに極めて近いものを感じさせ、つまりは「トンデモ本」の類? という印象を、ワタシは一橋文哉に残したままだったわけだ。
 「トンデモ本」が嫌いなのではない。例えば今年は『帝都東京・隠された地下室の秘密』(秋庭俊)というのを読んだ。現在東京を走る地下鉄のトンネルは実は戦前に既に存在していた、という内容で、作者のモチベーションの判然としない執着と、その相談役の友人の洗脳されていく様が可笑しくて、大笑いしながら読んだ。初手からこれは「トンデモ本」だ、という意識だったのが幸いしたわけで、つまりはコレが「読書モード」が上手く機能した例だ。
 ところが本書『三億円事件』は「トンデモ本」とも言い切れない側面を持っている。「新潮45」に連載されていたし、なにより世間の一橋文哉への評価が、「ノンフィクション作家」なのだ。本書の文庫版ではじめて知ったが、『闇に消えた怪人』の元になった連載「ドキュメント『かい人21面相』の正体」は「雑誌ジャーナリズム賞」というのを受けている。その後著書も数多く出している。ということは、一橋文哉は秀れた「ドキュメントを書く人」、なのか? けれど『闇に消えた怪人』での印象がやはりぬぐえず、本書にたいしても曖昧な立ち位置のまま読みだしてしまった。

 ということで、冒頭やはり「謎の情報提供者」なんかがあらわれて、これはヤバイと思いつつもまあ面白く読めました。でも釈然としない終わり方でした。内容にな関しては特に感想はありません。

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